冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。


だけど、それは理由なくしてきたわけではないはず。

きっと何か理由があって、わたしにキスをしてきたのだ。


……もちろん、その理由は想像さえつかないのだけど。



「わたしは、……迷惑とは思っていま、せん」



よく考えて、出した答え。

そこにウソは含まれていない。


それは、皇帝相手にウソをつくなど、それこそ反逆罪で処されると恐れたというのが半分。


もう半分は、その質問を投げかけた飛鳥馬様が、少しだけ寂しそうな、そんなお顔をしていたから。


この街において、最強と謳われるお方が寂しげな表情を浮かべているのを見て、驚いた。

だけど、それと同時に既視感を覚えたんだ。


眉を下げて、瞳を悲しげに伏せて、色のない瞳をする。そのくせ、何かに期待して、だけどそれは最初から叶わないものだと諦めている。


飛鳥馬様のその表情が、雨の降る夜に絶対に帰っては来ないお母さんをただ1人薄暗い部屋の中で待ち続けていた、幼き頃のわたしの横顔と重なった。

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