冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
わたしたちが座る後部座席の様子は、運転席に座って車を運転している真人という従者からは見えない。
それは、その間に仕切りが設けられているからだ。
さすが超高級車と言うべきだろうか。
前と後ろで仕切られた今も、後部座席のある空間はとても広い。ここで生活出来るんじゃないかと思うほどに。
「──飛鳥馬様、お話中のところ失礼ですが、もう少しで皇神居に到着致します」
運転席の方から、真人という男の声がした。
飛鳥馬様はそれに、「ああ、分かった」とだけ返して、そっと伏し目がちな瞳になる。
そして、わたしと目線の位置を合わせ、にっこりと微笑んだ。
「───あやちゃん、霜蘭花に入る準備、できてる?」
「……っ、は、い」
わたしたち2人を包む空気感が、さっきよりもより一層重くなり、脳内をピリリとした緊張感が走った。