冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
まだ春が訪れて間もない今は、夜でも少し肌寒い日が稀にある。
今日がまさにそうだ。
「わたしは大丈夫です…よ」
飛鳥馬様がわたしを抱っこして歩いているという、何とも恐れ多い光景。
多分、客観的に自分の今の情けない姿を見たら、死にたくなってしまうほどの羞恥心と、畏怖の感情。
車の中にいた時とは違って、飛鳥馬様の首にしっかり腕を回さないといけないし、腰に両足を絡ませないといけないというのが、苦痛でしかなかった。
東ノ街を支配する15代目霜蘭花派皇帝に、わたしはなんてことを……っ、!
だけど、その本人自身はそれに関して何も言ってこないし、何より飛鳥馬様がわたしを抱っこしているのだから、わたしはギリセーフなのでは……??
飛鳥馬様の両腕がわたしの太ももの裏に回され、しっかりと固定するようにそこで結ばれている両手。
それが結構恥ずかしいところにあるから、頬に熱が集まってしまうのは仕方のないこと。
「そっか。だけどおれが心配だから、これ着てて」
「……っ、へ?」