冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
飛鳥馬様がそう言った次の瞬間、真人という従者がこちらに近づいてきて、わたしの肩にバサッとカーディガンらしきものを羽織らせた。
「ありがとう、真人。あの夜のことちゃんとあやちゃんに謝ったら、自己しょーかいしてもいーよ」
車の中でわたしと話していた時とは少し違う、トゲのある冷たい声音。
口調は比較的優しいのに、その優しさの裏に何かドス黒いものが隠れているような……、そんなことを感じさせる。
飛鳥馬様は真人という男を振り返ることなく、立ち止まる。
対するわたしは、飛鳥馬様に抱っこされているので、後ろにいる真人という男と必然的に目があってしまう。
あの夜、容赦なくわたしの首にナイフを突きつけてきた夜の世界の住人。
夜の世界に生きる側の人間には、決まって同じ特徴がある。
その瞳に映る全てのものが、光なきものとして存在する。
飛鳥馬様と、その従者である真人という男の瞳は、まさにそんな感じの冷めきった冷酷さを、口には出せないあらゆる憎悪を、含んでいるように見えた。
「───…七瀬様、先日お首に刃物を当てて大変怖がらせてしまったことを、心よりお詫び申し上げます。
このような失態はもう2度と致しません。……なので、この馬鹿で無能な私を許してくださると幸いでございます」