冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。


だからきっと、この真人という男も自分が謝らなければいけないというこの状況に、顔には出さないけれど少なからず理不尽さを覚えていると思う。


だけど、飛鳥馬様の命令に忠実に従っているのは、きっと本当に自分の主を慕っているから。

じゃなきゃこんな屈辱的行為、耐えられるはずもない。


……って、わたしが言うのも違うと思うけど。



「……ありがとうございます。七瀬様」



頭を上げ、俯きがちになって体勢を元に戻したその男の顔は、やっぱり苦痛に歪んでいた。

自分の置かれているこの状況を素直に受け入れられないという、憎しみの表情をして。



「…っい、いえ」

「私の名前は、仁科真人と言います。これからよろしくお願いしますね。──七瀬彩夏様」



意味ありげにわたしと目を合わせてきた、仁科真人さん。

これから……?

わたしと仁科さんの関係に、これからなんて言葉は不必要なはずなのに。

その言葉の裏に隠された意味を探ろうとしても、全く検討がつかない。

< 118 / 399 >

この作品をシェア

pagetop