冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
それが、今はどうだ。
ウワサによると、飛鳥馬麗仁は歴代で最も優れた“有能”らしい。このお方は、どんなことでも成し得てしまう。
つまり、
───東ノ街の完全なる支配も、可能だということ。
そんな現状を抱えながら、わたしたち“庶民”は生きている。
部屋の勉強机の側にある椅子に腰掛け、学校の鞄から数学の参考書を取り出す。
それを机の上に置いて開いて、勉強用の黒縁の丸眼鏡をかけ勉強を開始する。
2時間ほど参考書とにらめっこしながら問題を解いていた時。力が入りすぎたのかは知らないけれど、ふいにシャーペンの芯がポキッと盛大に折れた。
「あ、もったいない……っ」
結構長めに折れてしまって、気分が落ち込む。
一人暮らしのための生活費もあるのだから、なるべくそれ以外の出費は抑えたいのに……!
それ以外の学費は両親が払ってくれているけど……。
貧乏脳でそんなことを考えながらシャーペンのノックを数回押してみるけれど、いつまで経っても先端から芯は出てこない。
あぁ、これはもう中身の芯がなくなっちゃったパターンだ……。