冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
「……はは、そっか」
わたしの言葉に、なぜ切なげに微笑む飛鳥馬様。
本当に、このお方の真意が掴めない。
飛鳥馬様は、いつも何を思って生きているのだろう。
どんな気持ちを抱えて、毎日息をしているのだろう。
わたしとは違う世界に住むお方だから……。
庶民であるわたしと、この街の皇帝である飛鳥馬様では、身分の差が大きすぎるから……。
「……そうです、よ」
そんな言い訳を無意識の内に探して、最初から深く考えないようにしてきた。
だからわたしはこの時はまだ、皇帝である飛鳥馬様に隠された“本当”の人間性に、気づくことはなかったのだ。
トン……、と飛鳥馬様の靴が軽やかな音を立てる。
それは、皇神居の巨大な門の前に辿り着いた合図だった。
皇神居の周りを囲う、夜の闇に黒光りする数々の鉄格子。
そのシンボルとして存在を主張する、一際頑丈で厳格な門の中心に設置された、金色に輝く霜蘭花のマーク。
蘭の花が縦に連なり、その周りを細々とした氷の霜が覆っている。