冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。


あの日、家から夜の世界へと初めて足を踏み入れた瞬間の感覚よりも。

今この瞬間、飛鳥馬様の右足が皇神居の敷地に入った時に感じた“別世界感”。


俗世から隔離されたような、世界の片隅に身を置かれたような、そんな不思議な感覚。


ここが、飛鳥馬様たちの住まう太陽のない闇夜の世界なんだ───。


大きく大きく、膨れ上がる好奇心。


関わってはいけない、関われるはずもなかった、夜の世界に生きる皇帝と、わたしは今同じ場所で同じ時を過ごしている。


飛鳥馬様のお迎えを待っていたあの時は、逃げ出したくなるほどの恐怖に襲われていたというのに。

初めて目にした皇神居を目の前に、わたしは幼子(おさなご)のようなキラキラとした瞳で、まだ見ぬ世界の姿を見つめている。


たった1つの街に、2つの大きな世界が存在する。

太陽の街と、暗黒の夜の街。


それは、永遠に交わることはない、決して交わってはいけない2つの世界。

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