冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
飛鳥馬様は気だるげな声でそう言った。
まるで労う意も込められていないように感じるやる気のない声音でも、配下の人間たちは皆驚いたように目を見張っている。
きっと、こうやって飛鳥馬様が自ら挨拶をするなんて、稀の稀なんだろうな……。
だからみんな、驚いたような顔をしながらもその表情に溢れ出る嬉しさを隠しきれていないのだ。
「「「……っ、ありがとうございます!!」」」
黒スーツを着た何十人もの配下の人間が、自らの主に向かって敬意を示すべく、そう言って膝に頭が付くほど深くお辞儀をした。
飛鳥馬様はそれにチラリと視線を送った後、かすかに微笑んでそっと瞳を伏せた。
大きな扉の両側に佇んでいた2人の配下が、慣れた手付きで扉を開けていく。
そしてその手には、皆白い手袋をしていた。
どこまでも高く重たそうな扉が、魂が吹き込まれたようにして開いていく。
そして、完全に開ききった扉のその向こうの光景を見て、わたしはゴクリと息を呑んだ。