冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。


……だけど。

それならどうして、飛鳥馬様は不機嫌そうな低いお声で『ほんと、やめてよね』と呟いたのだろう。


少しの間そんなことを悶々と考え込んでいると、わたしを抱っこしていた飛鳥馬様の腕の力が緩むのを感じた。

だから、飛鳥馬様の腰に巻き付けていたわたしの両足は支えをなくし、そのままズルズルと下へと落ちていく。


そしてそのまま、皇神居の神聖な大理石の床に降ろされる。



「へ……っ、」



突然のことにビックリして、わたしは飛鳥馬様のお顔を2度見してしまう。

どうしよう、足、ついちゃった。わたしが一生をかけて稼いだお金でも足らないほどの価値ある床を、汚してしまった。


わたしをご自身のお体から降ろした飛鳥馬様だったけれど、その両腕は、今度はわたしの腰に回され、ここでもゼロ距離なまま。



「……ねぇ、あやちゃん」

「……?何ですか?」

< 132 / 399 >

この作品をシェア

pagetop