冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
「…っ、あやちゃん。今、なんて?」
わたしにそう聞き返す声が、震えているのがすぐに分かった。わたしの首筋に顔を埋め、わたしを抱きしめる力がもっと強くなり、少し息がしづらくなる。
「えっと、だから……いますよ、彼氏」
だけど、わたしはもうその人のことを純粋に好きだと思えないんです。
一緒にいても、もう幸せを感じられないんです。
わたしは……、最低なんです。
相手の全部を受け入れてあげられない、最低な女なんです。
誰にも打ち明けてこなかった、わたしのその悩みは喉元でつっかえて、口から吐き出されることはない。
この苦しみを誰かに聞いてもらうことさえ、出来ない。
「……ちょっとこっち来て」
すると突然、わたしを抱きしめていたはずの飛鳥馬様がわたしから両腕を離し、代わりに手首を掴んで歩き出した。
広すぎる舞踏会場のような空間から、飛鳥馬様に腕を引かれて真っ暗な廊下へと進んで行く。