冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
飛鳥馬様は高校生。学年までは分からないけれど、風のウワサでは“そういうこと”になっている。
……そう。ただ、“そういうこと”になっているだけ。
東ノ街が完全に支配されていない今、住民たちは皇帝がまだ高校生だから、日が昇った街に手を出せていないのだと、勝手に推理している。
まだ未成年だから、全てを掌握する器を持っていないのだと、勝手な妄想を繰り広げている。
もし飛鳥馬様が高校生じゃなかったら……、なんていう考えを住民は最初から見て見ぬふりをしているのだ。
なぜなら、もし本当にその考えが合っていた時、わたしたち住民は今この瞬間から、
いつ皇帝に太陽の街が支配されてしまうのかという恐怖と隣り合わせに毎日を生きていかねばならないから。
───だからわたしたち住民は、飛鳥馬様がまだ完全なる支配力を所有していない未成年だと信じたいのだ。
まだ高校生であると信じて、希望が捨てられないのだ。
……どうせいつかは儚く散ってしまう、日が差す太陽の街。
わたしたちは、この都市以外の住民が普通に持つことの出来る永久に失われることのない自由を、この世界で息をしている限りは手に入れることが出来ない。