冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。


それは西ノ街の住民も同じだ。


俯きがちになりながら廊下を歩いていると、突然目の前の何かにドンッと顔をぶつけた。



「……っわ!?」



視界が真っ黒に染まる。


一体何にぶつかったのかすぐに理解出来なかったけれど、その漆黒の正体が飛鳥馬様の着ているスーツの色だということに気づいた。



「……ぁ、も、申し訳…っ」

「──謝んなくていい。……てか、謝らないで」



わたしの言葉を遮る声の中で、今のが確実に1番機嫌が悪かった。

それが地を這うように低い声音から読み取れる。



「も、申し訳……っ、は、い」



また謝ろうとしてしまって、慌てて自分の口を止める。そして代わりにコクンと頷いた。


すると、俯いたわたしの頭に、そっと大きな手が添えられた。そしてわしゃわしゃと優しく撫でられて、ストレートロングの黒髪が少し乱れる。

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