冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。


「……ん、それでいい」



さっきよりも幾分優しくなった声音と雰囲気。

わたしの頭を撫でて離れていったその手の温度は、やっぱり驚くほどに冷たかった。

ちゃんと血が通っていないんじゃないかって、失礼だけどそう思ってしまうほどの冷たさ。



「……っ、あやちゃん?なにしてるの」



きっと、反射的にしてしまったんだと思う。


離れていこうとした飛鳥馬の右手を咄嗟に掴んで、両手で包みこんだ。

ただ、この冷たい手を温めることだけに必死になって。

一瞬、飛鳥馬様がこの街を統べる皇帝だということを忘れて。


ぎゅっと握った両手から、わたしの体温が飛鳥馬様へと伝わる。

氷のように冷たかった飛鳥馬様の手がわたしの熱によってじんわりと温かくなる。



「……よかった。ちゃんと、あったかくなった」



尋常じゃないほどに冷たかった飛鳥馬様の手は、他人からの温かさを受け入れられる手なんだ。

そう思ったら何だかほっとして、思わず笑みが浮かぶ。

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