冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
私は自分の部屋から出て、階段を駆け下り、1階のリビングの机の上に置いてあった財布を手に取ってから、いつもは向かうことさえしなかった玄関に向かう。
財布を取った時も玄関に向かっていた時も心臓がドキドキと暴れすぎてどうにかなってしまいそうだったけれど、この扉を開ける瞬間の動悸はそれらとは比べ物にならない。
ドクンドクンドクン……ッ。
知らず知らずの内に自分の手が震えていたことに気づき、一瞬この先の世界の扉を開けるのを躊躇った。
だけど、すぐに気を奮い立たせてこの扉の先へ踏み出すことを決心した。
「……っ、よし。行こう」
この時のわたしは、まだ知らなかった。
この選択が、後からとんでもないほどの波乱を巻き起こすことになるなんて───。
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怪しい夜の街という雰囲気を存分に醸し出すネオンの明かりに照らされながら、誰もいない繁華街を歩く。
出来るだけ背を小さくして目立たないようにするために猫背になりながら恐る恐る辺りを窺う。