冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
飛鳥馬様の言っていることが、すぐには理解出来なかった。
それくらい、複雑で難しいことを話されているような気がしたから。
だけど、1つ驚いたことがあった。
それは、飛鳥馬様自身のお口から、“冷酷”という言葉が発されたことだ。
初めて飛鳥馬様と出会ったあの夜に感じた、異空間。そこは、信じられないくらいに冷たかった。
飛鳥馬様の周りの温度だけがとても低く感じたのだ。
きっとその冷気は本当にあるわけではなく、わたしの幻覚によるものなのだけれど……。
「……もしわたしが温めたら、飛鳥馬様のお手はちゃんと温かくなりますか」
「うん、なるよ」
妙に確信とした言い方で、得意げな表情をして口角を上げた飛鳥馬様。
それが少しおかしくて、ふふっと笑みがこぼれる。
飛鳥馬様の両の手をわたしの両手で包み込むようにして温める。わたしの指先から、飛鳥馬様の指先へと体温が伝わっていくのを感じる。