冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
「血筋がどうであれ、わたしは飛鳥馬様が冷酷なお方だとは思えません。飛鳥馬様と何度かお話して、そう感じました」
ずっと心の内に秘めていたこと。
飛鳥馬様の黒いウワサばかりを先入観だけで信じて、本当の飛鳥馬様を見ようとしていなかった過去のわたし。
飛鳥馬様を恐れてばかりで、まともなことも発してこなかったわたしだけれど、今なら言える。
飛鳥馬様のあの幼い笑顔を何度も目に映した今なら、飛鳥馬様がわたしと同じ人間なんだと思うことが出来る。
「言うようになったね、あやちゃん」
「……!」
「あやちゃんが思ってること、考えてること、おれに教えてよ。今のおれは皇帝でも神でもなんでもなく、あやちゃんと話してる普通の“男”だから」
綺麗な形をした唇が緩やかな弧を描く。
わたしにそう言った飛鳥馬様の表情は、怒ってる風でも気分を害した風でもなく、穏やかな色を浮かべている。
そして飛鳥馬様は、わたしを優しげに見つめながら小首をかしげてふふっと上品に笑った。
───飛鳥馬様の冷たすぎた手は、わたしの体温によって温められて、すごく凄く、あたたかかった。