冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。


そしてすぐに、おれはそんなことを訊いたことを後悔することになる。



『……い、います、よ』



その言葉が、何を意味するのかなんて、本当はそれを耳にした瞬間から分かっていることだった。

だけどおれは、それを信じたくなくて、事実だと受け入れがたくて、自分の聞き間違いであって欲しいと思って、



『…っ、あやちゃん。今、なんて?』



思わず訊き返していた。



『えっと、だから……いますよ、彼氏』



この瞬間、心臓がえぐり取られるという表現を理解した。

息ができなくなるほど苦しくなって、あやちゃんの色白な首筋に自分の顔をうずめる。


現実を突きつけられて、情けない顔を見られたくなくて顔を隠すなんて、おれはどこまでダサい男なのだろう。


あやちゃんを抱きしめる腕の力が強まる。


今おれが抱きしめている目の前の女の子は、こんなにも近くにいるのに、とても遠い場所にいるような心地がしてならなかった。

< 147 / 399 >

この作品をシェア

pagetop