冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。


今おれの目の前にいるあやちゃんは、他の男の彼女。



『……ちょっとこっち来て』



それが想像以上に苦しくて、この歪んだ顔をあやちゃんに見られないようにどこに行くともなく歩き出した。


おれが廊下に足を踏み入れると、人感センサーが作動してランプの明かりに火が灯る。そして一気に、真っ暗だった廊下が煌々とした明るい赤色に染まった。


あやちゃんはそんな突然のおれの行動に戸惑いながらも、従順に腕を引かれて付いて来ている。


きっとおれには逆らえないから、こうやっておれの我儘を聞いてくれているんだな……。


そこにはきっと、優しさじゃなくて恐怖心しかないのだろう。それが少し、いやかなり、悲しい。


こんな感情は身勝手な我儘だと分かっているけれど、決して変えられないと身に沁みて分かっているけれど、それでもおれは、

あやちゃんがおれに優しくしてくれる理由が自分にとって喜々とするものであって欲しかった。


───だけどそれは、無理な願いだ。


皇帝であるおれは、太陽の差すあっち側の世界の人間に貪欲になってはならない。

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