冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
飛鳥馬家には、そういう祖訓がある。
別にどの部屋に入ってもおれにとっては全て同じだからどうでも良かったけど、胸を覆い尽くすこの黒い感情を落ち着ける時間が欲しかった。
余裕のないままあやちゃんを逃げ場のない部屋に連れ込んだら、おれは何をするか分からない。
酷いことをしてしまうかもしれない。今以上に恐怖を植え付けてしまうかもしれない。
気持ち悪くて汚い、黒く靄がかった感情を必死に押し殺して、おれはやっと歩く足を止めた。
すると、おれが突然止まってしまったせいか、あやちゃんの小さな頭がコツンと背中に当たるのを感じた。
『……っわ!?』
可愛らしい声が、おれのすぐ背後で聞こえる。
こんなにも近くにいるのに、手を伸ばせば触れられる距離にいるのに、どうしてこんなにも遠く感じてしまうのだろう。
あやちゃんとおれは、一生交わることはない、交わることは許されない、そんな平行線上のカンケイ。
『……ぁ、も、申し訳…っ』