冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。


……よかった、誰もいない。


わたしはほっと胸を撫で下ろし、足早に繁華街を抜けてコンビニへ向かう。


店に入る前に、どこか遠くの方からバイクを走らす凄まじい騒音が聞こえたけれど、何も聞こえなかったフリをして聞き流した。


そうしないと、怖すぎて正気を保てない……っ!


コンビニに入り、すっと体を通り抜けた冷気に肩の荷が下りる。


知らず知らずの内に溜め込んでしまったとてつもない疲労感からか、思わず安堵してしまうほどの安心感が健全なライトで満たされているコンビニにはあった。



「いらっしゃいませ、お客様」



礼儀正しく丁寧な口調でそう言った店員にちらりと視線を送った。理由は単純明解(たんじゅんめいかい)


いつもはやる気のなさそうな気だるげな声で「いらっしゃいませー……」と義務的に呟くだけの中年店員が、律儀に丁寧すぎる口調でそう言う黒いスーツを着た若い男性に変わっていたからだ。


これはもしかすると、もしかしなくても……表の世界と裏の世界でのシフトチェンジ、コンビニエンスストアバージョンだろうか!?


住民の間で流れていた興味深いウワサを今目の当たりにしたわたしは、結構な衝撃を受けている。

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