冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
“皇帝”は、誰かに甘えてはいけない存在。
常に気を張って他人を警戒し、疑うことを忘れずに接しなければならない。
だけど、今のおれはどうだろう。
目の前にいるあやちゃんを、そんな邪な感情で見れない自分がいる。あやちゃんの前だけでは、警戒して疑う心さえ呆気なく消えてしまう。
『わ、わたしなんかが……っ、飛鳥馬様に触れてもよろしいのですか』
おれに対していつも腰の低すぎるあやちゃんに、イラッとしてしまうのはもう何度目か分からない。
きっと、そうさせてしまっているのもそうせざる負えないのも、全部おれのせいなんだろうけど……。
おれが皇帝じゃなかったら、この街の支配者じゃなかったら、───あやちゃんと同じ世界で笑い合える日が来たのだろうか。
『あやちゃんは“なんか”じゃない。またそうやって自分のこと見下すようだったら、───次はその唇、塞ぐよ』
……きっとそんな日は、永遠に訪れることはない。
あやちゃんが、こんなおれを好きになってくれるはずがない。