冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
分かりきったことだった。だけどそれをいざ言葉にしてみると、どうしようもなくその事実がくるしい。
その唇、塞ぐよ──なんて、あやちゃんに彼氏がいると知った今は、そんなことをする勇気さえ湧かないくせに。
暗い気持ちに浸りながら、あやちゃんの唇を優しく撫でていた左手がそっと温もりに包まれた。
それだけで、死にたくなるくらい幸せな気持ちで心がいっぱいになって、はち切れそうになる。
頬がだらしなく緩んでいく。
こんなにも心から浮かべた笑顔を、誰かに見せたことはない。
『……どうして、飛鳥馬様の手はこんなにも冷えきっているのですか』
その質問に、一瞬本当のことを答えるのをためらった。
あやちゃんのことを、困らせたくなかった。
だけどあやちゃんは、真摯な瞳でおれをまっすぐに見つめている。
『……そういう血筋だから』
あやちゃんに気味悪がられたくない。白い目で見られたくない。