冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
もう1人の皇帝
暗い夜の闇にすっかり呑み込まれてしまった広い空を、ベンツの窓から見るともなく眺める。
皇神居で飛鳥馬様の手を温めたあの後、部屋に入ることなく飛鳥馬様に連れられて、ベンツに乗り込んだ。
「あやちゃん、今日は本当にありがとう。いい気晴らしになった」
わたしの隣で静かに凪いだ声音でそう囁く飛鳥馬様。
お礼を言われるようなこと、何もしてないのに……。
それにわたし、随分と失礼なことばかりしてしまっていたような……。
「い、いえ……っそんな、」
「あやちゃん。おれがいい気晴らしになって言ってんだから、それでよくない?何を反抗する必要があるの」
「べ、別に反抗しようとしていたわけじゃ……!」
そこまで言って、顔をバッと正面に背ける。
飛鳥馬様の漆黒の瞳にこれ以上見つめられて耐えられる自信がなかった。
「あーやーちゃん。ねぇってば」
「……は、はい。何でしょうっ」
「なんで目ぇ逸らすの」