冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
わたしたちが生きる世界とあのお方たちが生きる世界はやっぱり違うんだ……と、ここでも思い知らされた瞬間だった。
きっとこの男性は、この街を支配する霜蘭花の従者の一人なのだろう。
ひいぃっ、何と恐れ多い……!
交わってしまった視線を無理やり逸らし、文具の置いてある棚へとそそくさと移動する。
わたしは0.3のシャー芯を見つけ、それをすぐに手に取り、会計を済ませた。
その間、わたしは一度もスーツの男性と目を合わせることはなかった。
っふぅ〜…、とりあえず1つ目の試練は乗り越えた。
後は何も起こらず、誰にも遭遇せず、自分の家まで帰るだけ。自分の胸にそう言い聞かせてから、コンビニから外へと出る。
見上げた空は真っ暗で、今日は星1つ輝いていない上に足元を照らしてくれる月明かりさえない。
全てが真っ黒な漆黒に覆われていて、それがまた不気味だった。歩き出す瞬間、コンビニの横の木の茂みの方から突然ガサガサッという音がした。
「……っ、!?」