冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。


すぐに音がした方を振り向いたけれど、そこには最初から何もいなかったかのような雰囲気で包まれている。


今、確かに何かが動く音がしたよね……?


ぞわわっと全身に鳥肌が立ち、身震いする。こんなに不安を感じることになるなら、最初から来なければ良かった……っ!


そう思い、帰路につこうと顔の向きを戻そうとしたその時───、


辺りにバァァァン!!という裂けた銃声が聞こえ、気づいた時には首のあたりにヒヤリとした冷たい感触があった。



「大人しくしていなさい」



わたしの背後で、丁寧な言葉遣いでそう静かに言った声を聞いたのと首に当てられている冷たいものの正体が鋭い刃を持った手持ちナイフだと気づいたのは、ほぼ同時だった。



「……っ、!!?」



途端にわたしを襲った“死”への恐怖と人生で初めて感じたこの上ない絶望感。


今すぐにこの拘束から逃げ出したくて、思わず身動きをとる。けれど、ズキン……ッと感じた強烈な首の痛みに、ナイフが首に食い込んでいるのに気づいた。

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