冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
何とか今ここで降ろしてもらうための口実を必死に考える。
「あやちゃんに対して迷惑だと思うことなんて、今までもこれからも一度たりともないよ」
「(うぐ、……っ)」
声にならない呻き声が吐き出される。
これはわたしの技量が足りないんじゃなくて、挑んだ相手が悪かったのだ。
決して、わたしの話術が優れていないわけではない。
「あ、あはは…」
今の状況に心が折れないようにそんな言い訳をしながら、愛想笑いを浮かべることしか出来ない。
飛鳥馬様の言葉の端々に感じられるわたしへの特別扱いには、気づかないフリをした。
それから3分が経過した後。
その間もわたしは何度も「今ここで降ろして欲しい」と飛鳥馬様に懇願したが、飛鳥馬様がそれに動じることはなかった。
だから、問答無用で絶望の淵に立たされているわたしは、もう何もかもを諦めたように死人みたいに精気のない顔をしていた。