冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
この人、明日死ぬのかな。
わたしの今の表情を見て、誰もがそんな失礼なことを思うだろう。
わたしの家の目の前に佇む人影は、きっと幻影なんかじゃないんだろう。
視力が昔から良いこのわたしが、見間違えるはずない。
ベンツの眩いライトが、目の前の人物を照らす。
相手はまだわたしの存在に気づいていない。
この車の窓がスモークガラスで、運転席と後部座席の間が分厚く上質な布で仕切られていて、良かったと思ったのは今が初めて。
「飛鳥馬様、只今彩夏様のご自宅に着きました。……しかし、何者かが彩夏様のご自宅の前に」
私が確かめて参ります、という言葉を残して、仁科さんはベンツのドアを開け、迷いない足取りで伊吹くんに近づいていく。
そのスーツの後ろ姿を、不安な面持ちで窓から見つめる。
だけど、仁科さんはすぐに“慌てた様子”でベンツの止めてあるわたしたちの所へ戻って来た。
どうした、のかな……?