冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
不安に煽られながら、窓の外を覗き込むと、後部座席の飛鳥馬様が座っている方の窓がコンコンと叩かれた。
仁科さんのただならぬ雰囲気に、飛鳥馬様は目を丸くして車の窓を開けるためのスイッチを押す。
窓の向こうの景色がクリアに見えて、視界が開ける。
ハァハァと肩で息をする仁科さんに、わたしと飛鳥馬様どちらとも目を見開いた。
「何があった、真人」
冷静な飛鳥馬様の声が降り注ぐ。
こんな時でも皇帝は狼狽えないのか。
さすがと言わざるを得ない。
「…ハァッ、ハァッ、飛鳥馬、様……っ!!あの者が、あのお方が、───西ノ街の皇帝、天馬伊吹がおりました!!」
飛鳥馬様の瞳が、剣呑な色に染まる。
仁科さんのその言葉に、わたしは気を失いそうになった。
……え、なんで、なんで。
伊吹くんが、西ノ街の皇帝……?
うそ、嘘だよ。誰か嘘だと言ってよ……っ!嘘だよね!?