冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
漆黒の瞳に垣間見える、わたしを心配する色。
このお方のことを一度じゃなく何度も冷酷だと思ってきたことが恥ずかしくなるくらい、その瞳は慈愛に満ちていた。
「わ、わたしのことは放っておいてください……」
飛鳥馬様からの心配を無下にするなんて失礼だとは思うけれど、今だけはどうか放っておいて欲しい。
今のわたしに、受け答えなんて出来ないから。
「どうしてそんなこと言うの。おれにとってはさいゆーせん事項なんだけど。あやちゃんの涙」
拗ねた口調で、膝に腕を置いて頬杖を付き、首を傾げてこちらを見据える飛鳥馬様の冷たい手が、ゆっくりとわたしの涙を拭う。
ひんやりとした手の感触が腫れた瞼に気持ちいい。
「……ん」
飛鳥馬様の手にまだ触れていたくて、わたしは自分の手でそれを掴み、瞼に押し付けた。
「もー、何してんの。かわいいんだけど」
明るい声が、飛鳥馬様がご機嫌なことを教えてくれる。