冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。


わたしは悪い女だ。

本当に、どこまでも。


わたしは今から、飛鳥馬様が絶対に傷つきそうなことを口にするのだから。


ドクドクと血管を流れる血の音が妙にうるさい。


恐る恐る飛鳥馬様のお顔を見上げて、意を決して口を開いた。


裏切り者だと罵られるかもしれない。

もうその優しい瞳を向けてくれないかもしれない。


わたしたちの名前をつけられない曖昧なカンケイは、ここで終息を迎える。


それでも、いい。それが1番、都合がいい。



「───西ノ街、10代目霜華派皇帝、天馬伊吹は、わたしの“彼氏”です」



だからわたしは、伊吹くんが西ノ街の皇帝であったということを、あたかも最初から知っていたフリをする。


どうか、今だけはわたしのウソに気づかないで───。

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