冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
それでも、あの日。
真新しい上質な制服に身を包み、春の桜吹雪が綺麗な高校の入学式の日。
妙に晴れ渡った真っ青な空の下、俺は初めて息を吸えた気がした。
桜色のハンカチを手に、艶のある黒色の長髪を耳にかけながら、首を傾げてこちらを見つめるその姿に。
──俺は一瞬で目を奪われた。
我ながら単純だと思う。たった数秒間で、その日初めて見た女相手に簡単に落ちてしまったんだから。
金縛りにあったように何の言葉も発さなかった俺を、彼女──彩夏は柔らかそうな頬を緩めて、穏やかに微笑んで一歩、また一歩と俺の方へ歩み寄って来た。
色白の細くて綺麗な足に鼻血が流れそうになるのを必死に抑えた。
なんだよ、情ねぇ。天馬家次男ともあろう俺が、女相手に余裕をなくしてしまうなんて。
『…大丈夫、ですか?このハンカチ、やっぱりあなたのものですよね』
どうしてそんな目で、俺を見るんだ。