冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
「伊吹くん……っ、!」
1番愛おしい子の声が、俺の背後から聞こえてくるなんて。……そんなの、誰も望んでなんかいねぇのに。
振り向きたくない。現実を受け止めたくない。
だって、振り向いたらもう、俺たちのカンケイは終わりなんでしょ……?
そう思わせるには十分な、彩夏の悲痛に満ちた声が聞こえてくる。
「…っ、なに、彩夏」
震える拳を強く握りしめて、唇が切れるくらいに強く噛んで、ぐっと目を瞑る。
……俺は、振り向くことが出来なかった。
「わたし……っ、わたしね…、伊吹くんに伝えなきゃいけないことがある、の……っ」
「そんなの、言わなくていい」
ていうか何も言うな……。
「わたしと……っ、別れて欲しい、ですっ」