冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
このお方に逆らえば、容赦なく、そして間違いなく殺される。


そんなことは目に見えている。

恐怖から目をギュッと強く瞑り、ただひたすらにこの地獄の時間が終わるのを待つ。


今のわたしは、きっと蛇に睨まれた蛙のような姿になっているだろう。


……本当に、情けない。


赤いチェック柄のスカートに力なく置かれた手を、掌に爪が深く食い込むくらいに強く握り締めた。


「おれといっしょの空間にいるの、そんなに怖い?」

「……っふぇ」


その言葉に、あからさまにビクリと肩が震えてしまう。


そんなわたしを見たからかは知らないけれど、そのお方───飛鳥馬様は乾いた笑いを零す。


信じられないほどの冷気を纏った飛鳥馬様を前にして、体が今まで以上に強張った。

飛鳥馬様に対して、霜蘭花(そうらんか)が支配する街の範囲内でわたしは決して悪いことなんてしていないというのに。


それなのに、わたしが何かこのお方の気に障るようなことをしたと、こんな所にまで連れて来られたからにはそう思わなければいけない。


「……これからおれと、外に出るよ」

「………っ、え?」


飛鳥馬様が玉座から身を起こしてストンと地に両足をつけて立ったのと、わたしの動揺した声が暗く広すぎる地下に力なく溶けていったのはほぼ同時だった。
< 2 / 399 >

この作品をシェア

pagetop