冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
直属の配下でさえこのような改まりすぎた口調で飛鳥馬様に接するのだ。やはりわたしはこのお方と目を合わせてはならない。
そう再度思った。
「その刃物から手を離せ。おれの言うことが聞けないのならお前の手首を先に切り落とす」
「も、申し訳ありません……っ」
飛鳥馬様の殺意がこもった声を聞いた瞬間、スーツ男は肩をビクつかせ、ガクガクと震える手からナイフを手放した。
その瞬間、首に食い込んでいた刃物の感覚がなくなり、少しだけ緊張感から開放される。
しかし、わたしの首には今までずっと刃物が当てられていて血も流れていたから、ズキズキとした痛みがまたもわたしを襲う。
その痛みからかわたしの口からはそれに耐える呻き声が漏れ出た。すると、わたしの視界に長くて細い綺麗な指をした飛鳥馬様の手が入り、どんどんこちらに迫ってくるのが見えた。
「……っ、!」
反射的にその手から顔を遠ざける。皇帝というこの街で一番偉く尊いお方の手にわたしなんかを触れさせてはいけない。