冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
言うなよ───、そんな悲しいこと。
俺の目の前は、今度こそ本当に真っ暗になった。
さっきまでは、彩夏が俺から離れようとしても絶対に離せないって本気で思ってたけど。
……現実は悲しいな。
俺と本気で別れたがってるのが一直線に伝わってくる彩夏の涙声が鼓膜に届いて、俺は「絶対に離さない」なんて言う気力もなくなるほどに、傷ついているんだから。
彩夏が背負うには、俺の愛は重すぎたのかな……。
……誰かを愛するなんて、両親にも誰からも愛されていない俺がするには、まだ早かったのかな。
いや、違う。きっと、そうする資格さえなかったんだ。
「そっ、か……。それならもう───別れよう」
大切なものを、大事にしていたものを手放すのはこんなにも苦しいのか。現実を受け入れるのは、こんなにも心が痛いのか。
勇気を振り絞って振り返った先には、涙を必死に堪えて唇を強く噛む制服姿の彩夏がいた。
それを見て、思ってしまう。