冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
───やっぱり彩夏は、優しい子だな。
きっと、今泣いていいのは自分じゃないから、なんて思って必死に我慢してるんだろう。
本当に泣きたいのは俺の方だからって、大嫌いな元彼のために泣くのを堪えているんだろう。
「……っ、!…う、ん」
驚いたように俺を見た後、彩夏は最後の声を振り絞るようにか細い掠れた声を出して、頷いた。
「あーあ、これでもうこの街にいる理由もなくなっちゃったな」
明るく聞こえるように、俺はため息とともにそう大きな声で放った。
今俺がするべきは、ただ1つだけ───…。
「……ぇ、?」
「俺ね、本当は西ノ街に早く帰りたくて仕方なかったの」
「……、?」
よくもまあ、こんなウソがポンポンと出てくるものだ。
彩夏は困惑した表情で俺を見つめている。