冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
そんな言い訳をしながら、俺は彩夏の唇に自分の人差し指を添えた。
「うん…っ、う、ん。分かった」
「良くできました」
こんなにも悲しい状況なはずなのに、俺の心は凪いだ波のように穏やかだ。
「……それじゃあ彩夏、バイバイ」
「……っ、うん。ばいばい…!」
どうしてそんなに泣きたそうな顔してんだよ。
邪魔者が去れば、彩夏だって嬉しいだろ?
自虐的な言葉を脳内で再生するけど、それによって俺はまたズキン…ッと心臓が痛くなった。
自分の言葉に傷つくなんて、俺はまだまだ弱いな。
「千明、もう帰ろう。……色々と疲れた」
彩夏たちから少し離れた所で待機していた千明に、俺はそう言った。