冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。


千明は俺に何か言いたげだったが、今回ばかりは何も聞かずに口を(つぐ)んでくれるらしい。



「承知いたしました。お迎えのお車を用意していますので、こちらに」



飛鳥馬麗仁のベンツが停められているのとは反対方向に、俺を迎えに来てくれた仲間のベンツがあった。


それを見て、堰き止めていた涙が溢れそうになったけど、まだ彩夏に見られている。だから我慢しないと。


離れがたい想いをひた隠しにして、俺はベンツに乗り込む。

それから千明がドンッとベンツのドアを閉める音が聞こえたのを最後に、外の景色は遮断された。


車内からは、スモークガラスであっても外の様子は幾分窺える。だけど、俺はそれをすることはなかった。


彩夏が他の男の隣に並んで立っているのを、どうしても手に入れたくなかったんだ。



「……天馬様はあやつに負けてなどいません。それは絶対に、揺るぎない事実ですから」



俺の隣に座った千明は、悔しそうに眉をしかめてそう零した。

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