冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
「……っふ、なんでお前が泣きそうになってんの」
「……な、泣いてなどいませんっ!何を仰るのですか!!」
顔を真っ赤にして、俺をキッと睨みつける千明は、年相応の少年のように見える。
そんな千明に、俺は元気づけられた。
そして、ベンツがゆっくりと動き出し、彩夏の家を通り過ぎ、飛鳥馬麗仁のベンツが停められている横も通り過ぎ、走行を始めた。
「……なぁ千明。去年の春、俺と一緒に東ノ街に付いて来てくれてありがとな」
「…っえ、は?」
「何の理由も言わずに、突然『東ノ街に行く。いつ帰ってこれるかは分からない』って言った勝手な俺を信じて、付いて来てくれてありがとう」
「いや、まぁ……」
ポリポリと後ろ髪を掻きながら、恥ずかしそうに声を小さくしてそう言う千明。
俺が主ということも忘れて、いつもの完璧な“配下”はどこに行ったと思わせるくらいに敬語が抜けた千明。
「あらゆる危険から天馬様をお守りするのが、俺の“仕事”ですから」