冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
「……ふーん。それだけ?」
「そ、それだけとは……」
俺はわざと千明を困らせるようにいじけた声を出す。
俺に付いて来ることを、単なる“仕事”だと言い切った千明に不満を抱く。
そこはさ、もっと、なんていうか……。
「も、もう……っ。わざわざ言わせないでくださいよ。そうです、俺はただ天馬様が心配で、この私情のためだけに付いて来たんです……!!」
俺が期待していた言葉がそっくりそのまま返ってきて、口元が緩む。皇帝ともあろう人間が、情けない。
「この照れ性が」
千明の頭をコツンと軽く叩いた俺の方が、よっぽど照れ性だというのに。自分に向けるべき言葉を、千明に放つ。
2人で少し笑い合った後、車の中に静寂が訪れる。