冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
どちらとも言葉を発すことはなく、照れの余韻が残っている気がした。
そんな空気に慣れていない俺は、すぐに居たたまれなくなって目を瞑ろうとした。──けれど。
「1つだけ、今までずっと天馬様に聞きたかったことがあります」
「……ん?」
「天馬様はなぜあの日、東ノ街に行かれる決意をしたのですか」
やけに緊張気味の千明の声に、俺はふっと笑みを零す。
まあ、そのことに別段大した意味はないけど……。
最後くらい格好が付くことでも言っておこう。
「───彩夏に会いに行くため、だったのかもな」
本当は、飛鳥馬麗仁を倒すためにこの街へと潜入をしたんだけど……。それでも、あの入学式の日、俺の殺意なんてちっぽけなものに思えるくらい、彩夏に惹かれたんだよ。
彩夏と幸せで静かな日々を送ってみたいって、そう思ったんだ。