冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
きっと秒速で首でも絞められて殺される。
なんせ彼らは、血も涙もない冷酷無慈悲な夜の世界の者で、人間の心なんて生まれた時から捨てたような人たちなんだから。
無闇に近づいてはいけない。
「……やっぱりお前も、おれと目を合わせるのは怖いのか」
それは、小さくボソリと呟かれた。
だけど、その声は東ノ街を支配する皇帝の声とはまるで思えない。
だけど、次に発された声は皇帝らしいそれだった。
「早く自分の居場所に帰れ。ここはお前がいていい場所じゃねぇ」
さっきのように寂しそうな、傷ついたような声ではなく、皇帝らしく冷たい口調と声音で突き放すようにしてそう言った飛鳥馬様。
既にスーツ男の拘束からも解き放たれていたわたしは、全身を震わせながらポケットの中に入れておいたハンカチを首に当て、その場から逃げるために全速力で駆け出した。
飛鳥馬様の声に感じた違和感はもうその時には既に忘れていて、早くこの夜の街から抜け出すことだけを考えていた。