冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
美結ちゃんはぎゅうっとわたしを抱きしめた後、バレーボールやら何やらが入った大きな部活用のリュックサックを背負って教室を出て行った。
伊吹くんと付き合っていた頃だったら、このままみんなが下校する時刻まで教室で勉強をしたりして時間を潰していたんだけど……。
もうそんなこともする必要はなくなってしまったから、わたしはそのまま学生鞄を手に提げて教室を出る。
廊下を進み階段を下りて、昇降口を通り過ぎ、正門を抜ける。
そして、東宮内高校の生徒はほとんどいない人通りの少ない家路に差し掛かり、いつも乗る電車の駅に向かおうとしたところで。
「あーやちゃん」
その声は、もうすっかり聞き慣れてしまったように、わたしの耳にスッと入ってきた。
「……何ですか、飛鳥馬様」
「何かって?そんなのあやちゃんに会いに来たに決まってるでしょ」