冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。


 ♦


月日はおよそ2週間前に遡る。

わたしと伊吹くんが、別れた日だ。


あの日、仁科さんが慌ててベンツの方へと戻ってきて、わたしの家の前に西ノ街の皇帝である伊吹くんがいると飛鳥馬様に伝えた時。


これまで1年間付き合ってきた伊吹くんが西ノ街の皇帝だという事実に頭が真っ白になりかけたけど、わたしはそれとは別のことで頭がいっぱいだった。


このことを利用して、何とか飛鳥馬様を騙せないか。



『───西ノ街、10代目霜花派皇帝、天馬伊吹は、わたしの“彼氏”です』



自らの敵である伊吹くんの彼女がわたしだったという事実を知れば、飛鳥馬様がわたしに好意を向けてくることはない……。


───そう、思っていたのに。



『……だからなに?』



飛鳥馬様は、平然とした口振りでそう述べた。

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