冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。


『……、ねえあやちゃん』


俯けたわたしの視界に、飛鳥馬様の長細い手が遠慮がちに入ってきたかと思うと、クイッと顎を柔く持ち上げられて漆黒の瞳に囚われた。


───そして、状況は次の一言によって一変する。



『協力、してあげようか。西ノ街の皇帝と別れたいんでしょ』

『…ぇ、……え?』

『あいつはね、強そーに見えて案外“ここ”が弱いんだよ』


そう言って、自らの心臓の辺りにトンと手を添えた彼は、漆黒の瞳を妙な具合にスッと細めた。



『あやちゃんが自分を裏切っておれと関係を築いてたってことを見せつければ、あいつは弱いからすぐに心が折れてどっかに行っちゃうよ』

『…は、はぁ……』



急に饒舌になった飛鳥馬様に、正直頭が追いついていない。


今唯一脳内で考えられることは、どうして飛鳥馬様がわたしのためにそんなことまでしようとしているのか、だ。


本当に、どうしちゃったんだろう……?

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