冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
「……っは、え?」
「だーかーら、聞いてんでしょ。誰のものに触ろうとしてたんだって!!」
穏やかそうに聞こえた声は一変、荒々しい声に変わった。
「そ、その…えっと……っ」
成瀬くんは飛鳥馬様の威圧感に耐えられなくなったのか、「すいませんでしたーー!!許してください〜〜っ」と尻凄みしながら反対側へと駆け出して逃げて行く。
その光景を、わたしはポカンと口を開けて見つめることしか出来ない。
この数秒間で一体何が起こった……の?
「あーやちゃん」
甘えた声が、わたしのすぐ耳元で聞こえる。
わたしを抱きしめる腕の力がさっきよりもっと強くなる。
「なん、ですか」
飛鳥馬様のことを“りとくん”と呼んでしまった手前、ちょっとだけ居心地が悪い。