冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
それは、相手がわたしだから───…。
「それじゃあ、この腕を早く離してください」
「それは却下。おれでも叶えてあげられない」
その即答ぶりに、思わず笑ってしまう自分がいるのは、心に少しだけ余裕が生まれたからだろうか。
「ふふ、こんなに小さな願いなのに」
「それ以外でお願いね」
わたしを後ろから抱きすくめる麗仁くん。
この冷たい体温は、わたしみたいにいてもいなくてもどうでもいい人間を必要としてくれているのだろうか。
そうだったら嬉しいな……。
なんて思うのは今日限りだから。
麗仁くんは、わたしなんかを助けてくれた強くて優しい人。
周りの人は皆このお方を冷酷無慈悲と言うけれど、わたしにとっての麗仁くんは、もうそうではない。
わたしだけに甘い顔を見せる彼。
わたしがいくら突き放そうとも、帰りの迎えの車を毎日準備していた彼。
こうしてわざわざ学校まで足を運び、わたしを恐怖から救ってくれた彼。