冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
初めて足を踏み入れた夜の世界で、わたしを仁科さんの手から逃れさせてくれた彼。
突然キスをしてきた彼。
わたしが自分のことを蔑んだら、それを叱って、怒ってくれた彼。
自分の身の上を、手が冷たい理由を、打ち明けてくれた彼。
伊吹くんとの別れを協力してくれた彼。
彼の体温に包まれながら、今までのことをゆっくりと振り返っていく。
ああ、やっぱり、こんなにも優しい。
こんな人の隣にいれたら、さぞ幸せだろう。
……それならなおさら、わたしは彼から離れないとね。
この街を支配する皇帝は、冷酷なんかじゃなかった。
それを知れただけで、わたしは十分幸福だ。
この街の将来が、安泰なものになるから。
「麗仁くん。……麗仁くんの方を向いたらダメですか」
「…ん、いいよ」