冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない。
そっと緩められた腕の力。
わたしはくるりと体の向きを変えて、麗仁くんに向き直る。
そして、どこまでも漆黒な底しれぬ瞳を真っ直ぐに射抜いた。もう、この瞳から目を逸らすことはない。
「麗仁くん───…」
伝えよう、わたしの思いを。
そして、今度こそ永遠に、わたしは麗仁くんの前から姿を消すんだ。
存在ごと、しっかりと。
麗仁くんが不幸にならないために。
「───あなたが好きです。今まで、本当にありがとうございました」
そう言って、2つの影が重なった。
冷たい両頬に手を添えて、つま先を上げる。
そして今度はわたしから、あまい甘いキスを落とした。
重なった2つの唇は、1度だけ触れてすぐに離れていき……。
麗仁がようやく正気を取り戻した時にはもう、そこに七瀬彩夏の姿はなかった。